◆ このページのポイント ◆
1.浸出水(ごみに触れた雨水)を集めて流す方法が、合理的でない。
2.浸出水を100mもポンプでおしあげるなど、自然の摂理を無視したもの。
3.排水がうまくいかない=山や川に高濃度塩分・有毒成分を含む浸出水が直接流れ込む。
4.浸出水の排水は50年、100年間壊れないシステムにしなければならない。が…
埋立地に降った雨がごみに触れると、有害物質を含んだ汚水が発生します。
これを浸出水といいます。
浸出水は、前のページにまとめたように、埋立地の地下・川に一滴も漏らさないよう
埋立地の底にあらかじめ遮水構造を敷いて集水・処理をしたのちに、しかるべきところに流すことになっています。
広島市案では、この浸出水を集水し、公共下水道へ接続するとして、
新規に下水道(新規建設する道路の下に埋設する)をつくるとしています。
では、どのような計画になっているのでしょうか。
市の現在の計画では、埋立地で集水された浸出水は、
湯来町水内(みのち)方面に流すのではなくて、お隣の安佐南区戸山を通して
安佐北区安佐町久地 幸の神(さいのかみ)で公共下水道に接続します。
恵下(えげ)埋立地は、戸山から一山越えた湯来側にあるので、浸出水を戸山に流すためには山を越させなければなりません。
当然水は高いところから低いところに流れますから、山を越させるためには何らかの人工的な力が必要です。
市はこれを、ポンプを使って上り坂をのぼらせ(ポンプアップ)、下り坂は自然に流れるままに任せる(自然流下)方法で
久地の公共下水道につなぎ、送水・排水しようと計画しています。
下のが、位置関係を示す図です。
(チラシ 「戸山地区のみなさんへ」)
上の図の赤とオレンジの線で示しているのが、市が計画している送水ルートです。
オレンジ色の区間は新しくつくるトンネルです(土地の買収が済んでおらずまだ建設されていません)。
トンネルの途中から「くすの木台」の文字の右端くらいまでが戸山地区です。
こう見ると、戸山地区の中を長く通ります。
これを、高低差で見たのが次の図です。
(チラシNo.42)
左端から追っていきましょう。
標高約400mのところにある埋立地下部の浸出水調整池から、山を越えるのに100mも高いところへ圧送(ポンプアップ)。
そこからしばらく自然流下し、
ピンク色で示した「戸山のメイン通り」と「くすの木台」の緩やかなのぼり区間でもポンプアップ。
くすの木台の手前で40mのポンプ圧送をします。
浸出水を久地の下水道に接続して排水するために、合計6か所でポンプを使用して坂道をのぼらせることになります。
最も高いところと低いところの高低差は実に320m。総延長は約13kmにも及ぶ長距離送水計画となっています。
(チラシNo.43)
(チラシ 「戸山地区の皆さんへ」)
このように、何か所もポンプアップして、長い距離を送水する計画は
全国に例がありません。
それだけでなく、広島市が「安全」と謳っているこの送水方法にも多くの問題があります。
浸出水を公共下水道に接続するにあたっては、次のことを大前提とするべきだと考えます。
●下水を流す基本は自然流下(わざわざポンプを使って圧送するべきではない)
●飛散などの起こらないよう緩い勾配で流すこと
●可能な限り、短い距離で流すこと
●維持管理できること
前提1 下水を流す基本は自然流下
下水の基本は自然流下です。
水ですから、不自然なことをせず、自然に流れ落ちることが望ましいのです。
今回の計画のようにポンプで圧送すると、故障や管の破損などで下水が噴き出すなどの問題があります。
埋立地から出る浸出水は、上水でもなければ、ただの下水でもありません。
通常の下水の中では魚は生きていけるけれども、浸出水の中では死んでしまうそうです。
埋立地から染み出してきた浸出水は、集めて下水道に流してもよい基準までに処理することになっていますが、
基準を満たしているだけで、通常の下水(家庭排水)とはまったく別物です。
(浸出水の詳細・浄化処理については別ページでお知らせします)
また、久地の公共下水道に接続するために6か所で使用するポンプは、言うまでもなく電気を必要とするものです。
その点で、今後最低でも約100年程度は電気使用の維持費がかかります。
また、ポンプが1個でも故障すれば排水が滞る(埋立地や排水管に浸出水が溜まる=漏水のリスクが高まる)
点にも問題があります。
さらに、電柱・電線からの送電ですので、自然災害で被災しやすいリスクもあります。
(戸山は山あいの川に沿ってひらけた集落で、送水管を通す県道71号線はほとんど土砂災害危険箇所に指定されています)
何より、そもそもポンプの機械自体が100年またはそれ以上の年月にわたって故障しない、という保証はありません。
万一故障したとして、それを直す部品が何十年先にも変わらずあるのでしょうか?
人間か管理・修理し続けることができるのは、いったい何年先までなのでしょうか。
自然流下であれば、電気も複雑な機器も使用せずに排水することが可能です。
前提2 飛散などの起こらないよう緩い勾配(常流流れ)で流すこと
自然流下がいいとはいえ、市の現行案には約8%・距離約2キロの急勾配の区間があり、
勾配があまりに急なので、流れる汚水が乱れたり(乱流)、飛び散ることや空気塊ができ水脈の乱れが生じたりして
流下阻害となる可能性があります。
それによって、
・汚染水がまい、マンホール部で噴き上げたり、下流管の閉塞でマンホールから溢れだしたりする危険性がある
・マンホールポンプが急に止まった場合には、ウォーターハンマーやエアーハンマーといった衝撃がかかる
(マンホールふたの浮上・飛散をもたらす水理現象…国土交通省「下水道マンホール安全対策の手引き(案)」より)
ことが指摘されています。
(“考える会”には市役所下水道課に長年勤務されていた方がいらっしゃいます)
マンホールポンプは湯来町の下水道にもありますが、よく故障し、下水が道路に溢れ出しているそうです。
送水の勾配が緩やかであれば、このような危険性はありません。
(参考 チラシNo.26)
←下流に進むにつれ、水圧が増し、管にかかる水の負担が増大します。
市は「管は腐食しない素材だし継ぎ目がないから大丈夫」と言います。また、「下水道で実績があるから」とも言いますが、下水道ではこのように一気に流すことはせず、何段階かに分けて水を受け止める設備があるそうです。
標高500メートルの高さから高低差320メートルを一気に流下させるという危険な手法は、下水でも前例がありません。
前提3 可能な限り、短い距離で流すこと
何よりのツッコミどころは、「一番近い公共下水道へ接続する」、ということでしたが、
接続予定地の安佐町久地 幸の神(さいのかみ)は、“一番近い”公共下水道ではありません。
市は送水管を道路下に埋設する手段のみで計画・説明していますが、
“考える会”は2012年8月20日から現在まで再三にわたって市に専用トンネルをつくって排水する方法を提案しています。
この場合、現計画の半分程度の距離によって下水道へ接続することが可能です。
(チラシNo.40)
前提4 維持管理できること
市の計画案のように、一般道路の道路下に埋めてしまうと、目に見えない場所にあるため、
日常点検がしづらいリスクがあります。
漏水が判明した場合、機器が故障した場合、修理箇所も見つけなければなりませんが、見つけにくいです。
メンテナンスが必要な際は道路を掘り起こさなければなりません。
その際は道路の交通規制も必要になり、通行の妨げとなる可能性もあります。
この為、“考える会”からは目視で点検がしやすいトンネル方式が提案されていますが
(地面に埋めるのではなく、専用トンネルをつくり、その中に排水管を通す。トンネル案については、
半径2メートル程度の専用トンネル案、道路整備と一緒にトンネルをつくりその中に設置する案などある)、
これらの提案に対して市は、 「考えたことがなかったから検討しない」
「(高すぎる見積もりを出して)費用が高い」という回答で、検討されたことがないそうです。
11月19日の戸山公民館での説明会でも、
「市はすでにこの計画で決定している。住民からの意見や提案で計画を変えることはない」と言い切っていました。
反対のための反対ではなく、安全性向上のための市民からの提案に対して、このような姿勢でいいのでしょうか。
“恵下埋立地と水内川を考える会”が提案しているトンネルの構造 小断面トンネルの場合(チラシNo.37)
さて、ここまでポンプアップと自然流下を繰り返す不自然な市の計画を見てきましたが、
計画当初、広島市は、別の方式で設計していました。
それは、全圧送。
恵下埋立地の浸出水調整池から久地の公共下水道まで、約13kmの道のりを 全線にわたって圧力をかけて流すこととしていました。
排水管もダクタイル鋳鉄管とし、 この方法が最も安全と説明していました。
しかし、平成25(2013)年度、
「計画を見直し『より安全を考え』下り勾配では自然流下、上り勾配ではポンプ圧送にすることとした」と“説明”し、
計画の変更を住民に説明しました。
(2013年12月5日 戸山公民館での説明会で配布された資料。図はこちら)
ところが、“考える会”が情報公開で求めた基本設計計画の“報告書”(実際の資料は←をクリック)によれば、
もともとの全線圧送計画は
●約100mもの水圧(水の高さで約100mのぼらせる圧力)で吸排気機能を有する空気弁が存在しない
(上水道でもこのような高圧にしない)
●上水ではなく下水レベルの汚水を流すので、管内に堆積する汚泥を除去することが困難
●硫化水素が発生して管の腐食が起こる
●漏水時などに管内の汚染水を迅速に抜ききれない
●このような長大伏せ越し構造は全国に例がなく閉塞する恐れがある
などから、 実施不可能である と書かれています。
つまり、住民には「より安全を考えて自然流下とし、管の材質も変えた」と説明しつつ、
実際には当初の設計がずさんで実現不可能であったから変更せざるを得なかったというのが真実です。
また、埋立地本体では2か所においてポンプ圧送するとの説明もありましたが、
先日の11月19日の説明会では2か所では足りないので、実際は3か所になるということも判明しました。
広島市、こんなことで大丈夫なのでしょうか…。
鉄の管なら腐食すること、上水道ではなく汚泥を含んだ水を流すなら詰まる可能性があること、
このあたりは素人にも想像できる範囲のことです。
それを「最も安全」と謳って何年間も計画を進めてきたことに疑問を抱かざるを得ません。
なにより、事実と異なる説明をしてその場しのぎをすること…。
太田川から供給される飲み水・農業用水が汚染されるリスクをはらむ広島市民全体にかかわる重大な事業において、
市民の安全を守るはずの市がこのような姿勢であること…。
皆さんはどう感じ、どう考えられますか?
(チラシNo.27)